情報デザインからコミュニティーの構築を考える
情報デザイン国際会議・ビジョンプラス7
Tokyo, 1999, october 07 - 09


10 09 am <情報の景観>
関明彦、デジタル・アイランド、マレーシア

デジタル情報・機能・デザイン、アジアの現場から

デジタル情報が従来の情報と大きく異なるのは、全てのデジタル情報がなんらかの機能によって支えられていると同時に、それら機能の群体として成り立っているという点にある。

例えば、ウェブ上の文章のなかにひとつの固有名詞があるとしよう。その固有名詞、たとえば「多摩美術大学」にリンクを張ると、その先で文章による詳細な説明もできるし、映像や音声でより具体的な表現もできる。このようにデジタル化された固有名詞は、ネットワークをつなげるの機能、動く絵を表示する機能、音を伝える機能などの複合体として存在する。デジタル化によって、こうした機能を組み立てることが可能になってきた。この点に注目すれば、情報を手に入れるためのメディア自体にある種の機能を持たせることで、さらに効率がよい情報伝達が可能になっていくことだろう。デジタル情報のデザインとは、その情報に適した機能のデザインであるといえる。

ところがここに、新たな疑問が出てくる。はたして情報をデジタル化し、それに適当な機能を盛り込むだけでいいのだろうか。それだけで、もともとその情報が持っていたビジョンや理念を伝えることができるのだろうか。私たちは近年、Monja Kidという子供向け統合型ブラウザーを開発し、それを用いて子供たちが集まったり、住んだりすることができるMonja Cityという情報空間をサイバースペースに構築している。このソフトはおもに東南アジア諸国で頒布しているため、Monja Cityもおもに東南アジアを中心とする世界の子供たち数百名がアクセスして出来上がっている。その活動の中で、情報とデザインの本質的な問題と出会っている。
たとえばMonja Cityのことを話すと、そこで「なりすまし」や犯罪めいたことは起こらないのかと心配してくれる人がいる。もっともな意見で、それに対する対応はいくつかあるだろう。ひとつはMonja Cityの管理を厳しくし、ソフトウェア自体に不正防止機能を盛り込むことだ。実際子供にポルノ・サイトを見せないためのフィルタリング機能を加えることはむずかしいことではない。しかしそのとき大切なのは、なぜ子供にポルノ・サイトを見せてはならないのかという、表現の自由や知る権利をめぐるより基本的なことが十分議論されるべきだという点だ。最終的にはポルノ規制をするにしても、十分な議論をせず、簡単にできるからという理由でフィルタリング機能を加えるのはおかしいだろう。

一方私たちは、Monja KidsやMonja Cityを子供にとってパブリックな場所になるようデザインすることで、犯罪が起こらないようにしようと努めている。子供たちがメールなどでコミュニケーションするときに、表面的な内容とは別に本当はなにを求めているか、それを探り、汲み上げてデザインをしようとしている。私たちは、デザインとは、人の情報行動を枠付ける強い力を秘めた営みだと考えている。それは、十分に計画されたものでなければならないし、その計画がうまくいけば、予想以上のはたらきをするものだ。

歴史的にみて、アジアは情報を欧米から一方的に与えられるだけの地域に甘んじてきた。アジアにおいて情報の送り手、発信者は、国家やマスメディアのような常に特別な存在であり、市民は情報の受け手、消費者として存在し続けていた。市民は情報を批判的に読み解く能力も、情報を生みだし、表現する能力も、すなわち情報リテラシーを与えられてこなかった。しかし、インターネットに代表されるデジタル・メディアが登場して、私たちは情報の送り手と受け手の関係を組み替えることができるチャンスを手に入れている。
私たちがデジタル情報とつき合っていくためには、送り手にも受け手にも情報と機能をめぐるリテラシーが必要となってくる。

情報リテラシーの育成と情報デザインの発展は、相互に深く結びついている。Monja Cityはアジアの子供の広場であり、アジア・チャンネルはアジアにおける「情報公共圏」とでも呼ぶべき情報空間として構想されている。それらのビジョンにふさわしい機能を、いかにデザインしていくことが可能だろうか。今回は、そのことに挑戦している私たちが、プロジェクトのプロセスで学んだことの実践的報告をさせていただくつもりである。




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